緩和ケア

治療中に苦痛症状が緩和されないと感じる時にとるべき行動7つ

緩和ケアを取り巻く背景から紐解く、知っておくべき緩和ケアの裏側の話~

私が経験してきた緩和ケアのこと。
これを少しでも多くの方に知ってもらいたいと思います。
今回は、がんの治療中に苦痛症状が緩和されない時に、とるべき行動7つ。
という題で緩和ケアの背景から知る、緩和ケアの裏側の話ということで、お伝えしようと思います。

世間的には、「人生会議!」「早期からの緩和ケア!」が叫ばれる中、インターネットで「緩和ケア」を調べてみても、緩和ケアというのは、「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルな苦痛」をTotalな全人的苦痛と考えて、緩和していく。

「ほぉ!Totalな苦痛を診てくれるのか!それなら安心だ。」

という声も聞こえてきそうですが、実際には治療に伴う痛み等の苦痛症状があり、症状が緩和されていない患者さんというのはたくさんいます。

なぜそういうことが起きているのか?

今回は緩和ケアを取り巻く背景から、まずはその理由を探ってみたいと思います。

そしてその上でどういった行動をとっていけばいいのか?その辺も私の経験からお伝えできればと思います。

この記事は以下のような人にためになるかもしれません。

  • 抗がん剤治療中だけど、痛み等の苦痛症状に悩まされている方
  • 辛い症状で苦しんでいるのをどうにかしてあげたいと感じている家族
  • 緩和ケアのことをよく知らない人

背景その1;緩和ケアを知らない医師が多い??

私は現在でこそ緩和ケアの医師をしていますが、実は私が学生の頃は、緩和ケアの事など学ぶ機会がありませんでした。

「医学は病を治すためにある。」

それが私達医師の最も重要な使命でもあり、そう医学部で教育を受けてきたのです。

ところががんが2人に1人になる時代になり、どうしても治らない病気と付き合っていかないといけない時代になりました。全ての病気を「Cure」する時代から、「Care」していかないといけない時代になりました。

病になって、苦しむ患者さん達ももちろん様々な情報に触れて、自身の治療に関して調べることができる時代にもなりましたが、それでも現場では、やはり主治医の治療方針に従って治療をせざるを得ない状況が多くあります。

多くの医師が医学教育で「生と死」、特に「死」について学び、考える機会が少ないため、多くの医師が緩和ケアがどんなものなのか?知らずに皆さんと治療していることも多いのです。最近でこそ、各大学でも緩和ケア学の講義もされるようになりましたが、私も含めて中堅以上の先生は、緩和ケアの体系的教育を受けていない方が多いのも事実なのです。

背景その2;緩和ケアに対しては実は医療者側のハードルも相当高い??

背景その1で話したように、医師の多くは緩和ケア教育というのをあまり受けずに今に至る現状があります。その中で救急外来等でも末期がんの患者さんが運ばれてくると、どうしよう?どう対処したらいいのだろう?と多くの医師が、困惑している現状もあります。

風邪とか怪我であれば、これまで通り治すことを全力でやればいいのですが、担癌患者さんというのは、がん自体は治らないことも多いので、どうしたらいいのか私達医療者も困ってしまうわけです。もちろん患者さんや家族さんはもっと困って受診しているのは言うまでもありません。

少し話を変えて、私はよく緩和ケア外来で患者さんに緩和ケアはどんなイメージですか?と聞きます。

「最期の治療」

「がんが治らない状態になってから導入される治療」

中には、

「主治医の先生に抗がん剤ができなくなったから緩和治療を受けなさい」

と言われたという人もいて、多くの方が緩和ケア治療を受けることに抵抗感を持っていることが分かりました。

先程述べたように、医師も緩和ケアのことをよくわからずにいる現状ですので、実は患者さんだけでなく、医療者側のハードルもかなり高いものになっています。

麻薬を使い慣れていない医師も多く、いまだに「モルヒネは最期の薬」といって、医療用麻薬をギリギリになって使用して、それまでの間患者さんが苦しんで過ごすという構図も時々見られます。緩和ケアに従事して、たくさんの患者を診させていただいた私からすると、もっと早い段階から、モルヒネを使用した方がより楽にすごせるのに、、 と感じることもあり、早期からの使用を提案したりするのですが、

「まだモルヒネは早いから」

と言って、後手後手になってしまい、最期に使用してしまうというケースも残念ながらまだまだあります。意外と患者さんとよく接している看護師の方が、早くモルヒネを使用してあげたほうがいいのに、、、、としっかり評価できていることも多々あります。

結果、残された家族にとっては、

「モルヒネを最期に使ってすぐ亡くなってしまった。」

という苦い体験が残されて、世代を超えてその体験が受け継がれていってしまうのです。

自身が同じような状態になった時も、

「モルヒネを使用して父がすぐ亡くなったから、モルヒネは使いたくない!」

そうならざるを得ない状況になり緩和できるはずの苦痛も緩和できない状況になってしまいます。

この構図は、間違いなく緩和ケアに関して、医師側のハードルも高いことを示していると思います。

これだけの背景を知ると、

「がんになって症状が出てきたら大変じゃないか!!」

そう思うかもしれません。でもご心配なく。

昨今がん対策基本法が制定され、

PEACE研修会資料より
PEACE研修会資料より

ということで日本緩和医療学会が中心となり、緩和ケア研修会というものが全国各地で開催されるようになり、10万人以上の多くの医師が緩和ケアの基本的な知識や、症状緩和のための医療用麻薬の使用方法について学ぶようになりました。

先程中堅以上は緩和ケアの教育を受けたことがほとんどないとお伝えしましたが、現在はこの緩和ケア研修会の受講は研修医はほぼ必須で、若手医師の方が麻薬の使用方法を理解していたりもします。

私のいる病院でも緩和ケア科を研修医時代に1~2か月回った研修医なんかは、外来でも頼もしいくらいに麻薬を使いこなして、がんの治療もしながら症状緩和も並行していっている先生もいます。こういった世代が多く育っていくことで、少しでも多くの患者さんの苦痛が緩和されていくことを願うばかりです。

私達医療者も、まだまだ緩和ケアに関しては、多くを経験しながら多くの患者さんから学ばせてもらっているところなのです。

上述の背景は、本当に根深いところにあります。

医師や看護師にとっても緩和ケアに対しては、教育機会や経験が少なく、ハードルが高いという緩和ケアを取り巻く背景に関してわかっていただけたでしょうか。

さて、ここからは、そういった背景を踏まえて、辛い症状がある際や、症状が緩和されていないと感じる際にどういった行動をとったらよいか、その行動7つについて提案したいと思います。

症状が緩和されないと感じる時のとるべき行動7つ

まずは主治医にしっかり自身の辛い症状を伝えて、日常生活にどのような影響があるかを伝える。

「医師は忙しそうで、話も聞いてもらえないから何も言えない。」

や、

「お医者さんのいう事に従っていれば大丈夫。」

という姿勢はあまりよくありません。

自身の困っている症状に関して、しっかりどういうところが困って、どのように生活に影響しているのか伝えましょう。医師も多忙な外来の中で、次の抗がん剤のメニューをどうしようか考えたりしていて、そこまで気が回らない現状もあります。横で聞いている看護師さんが何かアドバイスをくれるかもしれません。自身の一度きりの人生です。何も苦痛に耐える必要はないし、我慢している時間はもったいないです。少しでも体を楽にして過ごすために、まずは勇気を出して伝えてみてください。

抗がん剤点滴中に、看護師に相談する

抗がん剤の点滴をしている方は、抗がん剤中に少し時間的な余裕があります。そういった時に看護師や、薬剤師さんがゆっくり話を聴いてくれることも多いです。

私達医療スタッフも、抗がん剤中の時間というのは、じっくり話ができる時間があるので、何かきになることがないか等患者さんのきがかりを引き出せるチャンスタイムと考えて、フォロー体制を整えたりもしています。

がん相談支援室、がん相談支援センターに相談する

がん診療連携拠点病院等に設置されているがんの相談窓口でがん相談支援センターやがん相談支援室というものがあります。多職種でがん患者さん、その家族様をサポートできるように体制を整えています。

スタッフの中にはメディカルソーシャルワーカーや看護師、薬剤師、がんの専任看護師等もいて、さまざまな職種のスペシャリストががんに関する悩みや不安をサポートできる体制を整えています。

痛みなんかも、医療用麻薬での対処だけではなく、実は布団の生活で、立ち上がる際に痛みが強くなるということであれば、メディカルソーシャルワーカーの介入で、電動ベッドを介護保険でレンタルする等自宅の環境を整えるだけで、生活の質(QOL)が格段に改善されたりもします。

どなたでも無料で利用いただけますので、通院先にありましたら一度相談してみてはどうでしょうか?

なお、国が指定した研修を修了した相談員は、「がん相談支援センター」のロゴをかたどったバッジを着けています。

「がん相談支援センター」とは:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

入院中であれば担当の看護師さんに訴える、相談する。⇒院内の緩和ケアチームに相談

入院中であれば、院内に緩和ケアチームという、院内の症状緩和をサポートするチームがあるはずです。専門的な知識を持った医師や、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、栄養士等が主治医とは違った角度から、症状緩和を総合的にサポートしてくれるはずです。

担当の看護師さんに、苦痛症状や困っていることに関して相談してみてはどうでしょうか?そこから緩和ケアチームの介入が始まるはずです。

緩和治療科、症状緩和外来がある場合は、外来受診も検討

通院している病院に緩和治療科や症状緩和外来がある場合は、是非自身の苦痛症状に関して、相談してみてください。主治医にその旨を伝えるか、もしくは外来の看護師さんに相談してみるのがいいと思います。

日常生活に影響を及ぼすような苦痛症状(痛みや、しびれ、夜眠れない等)に関して、もっと主治医とは違った視点、知識でアプローチしてくれるので、生活の質(QOL)が改善される可能性があります。

例えば神経ブロックや硬膜外麻薬鎮痛法等で、難治性の痛みもぐっと楽になることもあります。じっと耐える必要はないのです。少しでも体を楽にして、過ごそうじゃありませんか。

家族や、信頼できる人に相談する

医療従事者でなくても、意外といい解決法を持ち合わせていたりもします。ただここで注意しなければならないのは、相談した人の体験談、成功談は要注意ということです!

その人の成功体験はその人だけの成功体験だからです。万人に効くわけではありません。 相談はしても、決めるのは自分です。そうでないと、「効くっていったのに、、、なぜ」という後悔ばかりが残ってしまいます。一つの選択肢として考えてみてはどうでしょうか。

そして何より!自分の辛さを分かってくれる人がいる、聴いてくれるひとがいる、相談できる人がいるというのは、大きな支えとなります。

ただ、親身に話を聴いてくれたり、相談に乗ってもらえるような「自分」であることも大事かもしれません。みなさんは、奥さんをしっかり大事にしていますか?笑 

普段の生活、関係性がよければ間違いなく困った時に誰かが救いの手をさしのべてくれます。

自身のふるまい方を考える第一歩になるのではないでしょうか?

民間療法にすぐ走らない

治療もできない、自身の症状がうまくコントロールされない時にやりがちな行動が、すがる想いで民間療法に走ってしまう患者、家族さんがたくさんいます。

まずは、しんどい症状を緩和しないことには、民間療法をいくらしてもたとえ精神的苦痛は緩和されたとしても、身体的苦痛は緩和されません。民間療法を決して否定するわけではありませんが、まずは適切な薬剤を適切な量使用して、しっかり苦痛を緩和して、民間療法はそれからの話になるのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

以上、症状が緩和されずに辛いと感じた時にとるべき行動7つを提案しました。

どうでしょうか?

医療者側もがんの苦痛緩和に関しては、大事なのは偏った情報に流されないこと。そして、我慢せずに信頼できる誰かに相談することです。たった一度きりの人生です。同じ時間を過ごすなら少しでも体を楽にして過ごすのがいいんじゃないかと思います。